『海は遠かった。』

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海に行った。



海が見たかったから。



あたしは買ったばかりのサンダルをはいた。
ヒールの高い真っ赤なサンダル。
彼が見て「可愛いね」って褒めるはずのサンダル。



なんとか砂浜まで辿り着くと
あたしのサンダルは砂にもぐった。




ヒールの部分が、ずぶりと音をたてて。




褒めてもらうはずのサンダルは砂に埋もれ
彼は少し寂しそうな顔をして
「だいじょうぶ?」と聞いた。



はまったヒールはなかなか抜けなかったけど
彼が寂しそうな顔をして見ていたので
「大丈夫だよ」と言った。





足を抜いてもまたもぐった。





足を抜いてもまたもぐった。





足を抜いてもまたもぐった。




少し怖くなった。




彼はもう、あたしの数歩先を歩いていて
ふりむいて「早くおいでよ」と笑った。







サンダルを捨てた。







彼が褒めるはずのお気に入りの赤いサンダルを捨てた。




ずぶずぶと埋まるサンダルを見て少し悲しくなったけど
それでいいんだと思った。サンダルがなければ走れる。



サンダルがなければもっと早くいける。





彼のもとへ走った。





彼のもとへ走った。





砂浜のガラスで足を切った。






血が出た。




彼に見せたかった赤いサンダルは砂に埋もれ
あたしの足は血で赤く染まった。



彼は「もう先に着いちゃったよ」と笑った。





あたしも笑った。




海までは遠くてもう歩けなかった。



サンダルは見つからない、そう思った。
傷口に砂が入り焼けつくように痛かった。


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