『帰っておいで』

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8月に入って仕事も落ち着いて
長めの休みが取れたので故郷に帰ることにした。

電車を乗り継いで半日かかる故郷は
お世辞にも都会とは言えない田舎。
電車を降りた瞬間感じる懐かしい匂い。


ここの空気は東京とは、違う。


卒業して上京するまでこの小さな町が全てだった。
1人暮らしをするのには不安もあったけれど、
いつのまにか東京が自分の場所になっていた。
行き詰まる事も多いけどそれなりにやってる。


久しぶりの実家はなんだか落ち着かない。
家族は喜び、母が好物の生姜焼きを作ってくれた。
いつもの生活にはいない自分を歓迎してくれた。


いつもの生活にはいない自分を。


なんだろうこの気持ちは。
ここに居続ける人達に対する羨望のような気持ち。
ここから出ていったのは自分なのに。


もう、あの日には戻れない。


だって知ってしまったから。


新しい場所を求めて、そして手に入れた。
ここでは見つけられない毎日を手に入れた。
それでいいはず。それでいいじゃない。


さあ、そろそろ帰らなくちゃ。


ここはいつも変わらずに迎えてくれる。
雨あがりの土の匂いやカエルの鳴き声、
近所のうるさいおばさんの声。空の色。
あの頃には全然気付かなかったけれど
やっぱり、ここは暖かいんだと思った。


玄関で母が声をかける。


 

「次の休みにはまた帰っておいで」


 

ふいに泣きそうになったのはどうしてだろう。
田舎の太陽がまぶしかったせいか。

 

いつでも帰っておいで。


 

ここに、帰っておいで。





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