彼は、とても車好きな人でした。
免許を取ってからはいろいろな車を乗り継いできたらしく、
運転はダイナミック、だけどすごく上手で、車の改造だって自分でやっちゃう人でした。
私がまだ免許を持っていないときは広い駐車場で運転の仕方を教えてくれたり
実際に公道を走ってみたり
しました。
そんな彼が知り合いから安価で手に入れた車はサニーのトラック。
通称サニトラです。
購入したばかりの頃、これは殺人車、キラーカーだったのです。
歩行者をひき殺す荒い運転とかじゃないですよ。
ただちょっとね、漏れてただけです。
排気ガスがね。
車内にね。
初めて見たときの感想は、うん、いかにもこれはトラックだねって感じです。
後ろに荷台があるので、後部座席はありません。
しかしラブラブカップルには無駄な座席などいらないのです。
いる場合もあるのかもしれないけどとりあえずいらないんです。
それで走り心地はどうなんだろうと、初めてのドライブのようなものをしていたんですが、
・・・・だんだん頭が痛くなってくるんですよね。
時期は夏。真夏。天気もかなり良かったので、ちょっと暑さ疲れしちゃったのかな?
なんて思ってたのが甘かったのです・・・
どうも息苦しい。
生命的になにかしらの危機が近づいてることを第六感で感じ取り、
きょろきょろと車内を見渡すと・・・げふん。
ギギギギギギ、ギアの下のこれはあ、・・・・・あ、穴?
穴・・・ですよね?
えーと・・・えーと・・・覗くと車の中身が見えるんですけど・・・。
どうもそこから排気ガスがぷよよ〜んと入ってきてるような気がするんですけど?
冗談ではなく、ε=( ̄ε ̄;|||)げふ!です。
排気ガスってさ〜一酸化炭素中毒でむこうの世界に行けちゃうやつだよね?
えっと、えっと、もしかしてなんだけど、もしかして今日死んじゃう?そういう方向で?
穴を見つめながら今夜の夕刊が見えてきました。
『アホカップル車内に排気ガスをひきいれ心中?!』
っていうか、排気ガスひきいれてないし。
勝手に入ってきてるし!(泣)
彼のほうは大丈夫だったんですが(なぜ!?)、
私が途中で気分が悪くなり、何回かコンビニで休憩しながらのドライブ。
ハンカチで口と鼻を押さえてできるだけ空気を吸わないようにしながらのドライブ。
さっきも言いましたが、真夏です。窓開けるとすごく暑いんだけど、開けないとマジで死にます。
このときほどサニトラを憎んだことはありません。
だがしかし。
喉元過ぎれば暑さを忘れる。つらいことほどいい思い出。
排気ガスが漏れてくるのさえ直せば、けっこうおもしろい車だったんですよ。
震えるくらい冷房が効くところとか。
冷房つけると水がだらだら垂れてくるところとか。
走ってるときに縦揺れがすごいので、
舌を噛んだり、頭を打ったり、胃下垂になったりとか。
ツッコみどころ満載の、乗ってるだけでネタができる、すばらしい車でした。
2人乗っていっぱいいっぱいってくらい狭かったけど、
狭いぶんだけ近くにいられたし、目立つからどこにいてもすぐわかるし。
彼以外にこの車を乗りこなせて、かつそれが似合う男はいないんじゃないかと思います。
あたしは彼と、サニトラが大好きでした。
今もサニトラは元気だそうです。
オレンジ色に塗装して更に目立ちまくりなそうな。
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